夫婦で水いらずの“海鮮居酒屋ごっこ”をした日の話
「寝た?」
「……うん、寝た。」
2人の子どもたちの可愛らしい寝息を確認した。その夜、僕と妻は、ドキドキとワクワクに胸を躍らせながら、そーっと寝室の外に出た。
まもなく、夫婦水入らずのビッグイベントが始まるのである。
「今夜、海鮮居酒屋ごっこしない?」
妻も目を輝かせながら、首を大きく縦に振る。
この日は、夜に控える“海鮮居酒屋ごっこ”への高揚感が、いつも以上に僕の仕事をはかどらせてくれた。
子どもたちの寝かしつけも、全神経を集中させ、込み上げてくるクシャミや咳払いをなんとか封じ込めながら、過去最速のタイムで夢の世界へといざなった。
さあ、おうちで海鮮居酒屋の開店である。
キッチンに小さなテーブルと椅子をセッティングし、魚焼きグリルにサザエとアワビを並べた。
スーパーで買ったお惣菜を小洒落たお皿に移し替え、ジョッキを片手に乾杯!
ジョッキの中身は、4リットルのボトルに入った焼酎を1本58円の強炭酸で割った特製レモンサワーである。
僕と妻が出会ったのは今から四年ほど前。出会ったころは、東京と名古屋の遠距離恋愛だった。
当時シングルファーザーだった僕が妻とデートすることが出来たのは1ヵ月~2ヵ月に1回程度で、中間地点の静岡駅で待ち合わせて、居酒屋でお酒と会話を楽しみ、逆方向の新幹線に乗って帰るというのがお決まりのデートスタイルだった。帰り際のホームではいつも「一緒に帰りたいね」と言っていた。
そんな胸キュンエピソードも、今となっては笑い話。僕と妻は、キッチンでお酒と会話を楽しんだ。
今回の“海鮮居酒屋ごっこ”を盛り上げてくれたサザエとアワビは、静岡県下田市のふるさと納税のお礼品。静岡県は、僕と妻を結んでくれたふるさとなのかもしれない。
「またいつか、子どもたちを連れて一緒に帰りたいね。」
僕の口から飛び出たキザな言葉に妻と2人で爆笑し、我が家の海鮮居酒屋は店じまいとなった。